父が来た | 晴海22歳の闘病日記 ~死ぬまで生きた~

父が来た

僕のいるホスピスは24時間面会が可能です。
夜中にふと目を覚ますと
父と目が合ってびっくりしました。

父は会社を経営していてとても忙しく
僕が入院してから一度もお見舞いになんか
来たこともなくて
僕も別にそれをどう思うわけでもなく
来ないものなのだと思っていました。

小さい頃から父はいつも遠いところにいて
ゆっくりと話をした記憶が僕にはありません。
今もとても近くにいるのに
何を話せばいいのかお互いわからない。

父が言ったのは一言だけ。

「立派な葬式をしてやるから、心配するな」

僕が返したのも一言だけ。

「ありがとうございます」

ごめんなさいとか、そういう言葉が
必要なはずでした。
三人の姉の次に生まれた唯一の息子として
父の会社を継ぐこともせず
大学へは進学せず
勝手に消防士になり
挙句、こうして親よりも先に死のうとしている。

孝行は一つもできませんでした。
僕が今できるのは、感謝することだけ。

僕の人生を僕に選ばせてくれてありがとうございます。
進学を蹴ったときも職を選んだときも
あなたが何も言わなかったのは
黙って僕の我侭を聞いていてくれたのですね、
遠いところにいたのではなく。
もしもあのとき親の意向を汲んで
我慢して進学し、我慢して会社を継いでいたら
僕は今ほどには満足して死を迎えられなかったでしょう。

ありがとうございました。